記事: TRAIL ROCKER PANTS|43パーツにたどり着くまで
山を始めた頃
登山パンツとの出会い
登山を始めたのはもう15年以上前のことです。正直なところ、当時どんなパンツを履いていたのか細かくは覚えていません。当時は道具の知識もほとんどありませんでした。パンツはただ山で履くための道具。それ以上でもそれ以下でもありませんでした。
どこへ行くか。何を背負うか。どんな景色を見るのか。考えていたのはそんなことばかりです。パンツについて深く考えるようになるのは、もう少し後の話です。

街に持ち帰りたかった
アウトドアパンツのデザイン
山へ行く回数が増えるにつれて、道具への興味も深くなっていきました。そして、その頃からずっと思っていたことがありました。登山ブランドの服はダサい。
もちろん機能は素晴らしい。でも格好いいとは思えませんでした。山だから仕方なく着ていた。そんな感覚です。
一方で僕が昔から好きだったのは、ミリタリーやワークウェアです。傷が付いても格好いい。使い込まれても格好いい。新品よりも、何年も使い込まれた姿の方が格好いい。
だからずっと思っていました。山で使えて、街でも格好いいものはないんだろうか。
別の世界を知った
海外ブランドとミリタリー
登山ブランドを見てもキリがないと思い、別の世界を見ることにしました。そこから海外ブランドやミリタリーウェアを見るようになります。新品よりも、使い込まれた姿に惹かれました。傷や汚れも含めて格好いい。そう思っていました。
当時の僕にとって登山ウェアはただの道具でした。でも海外ブランドやミリタリーウェアは違いました。道具でありながら、着たい服でもあったんです。山へ行く日だけではなく、普段から使いたい。気が付けばそんな物ばかり集めるようになっていました。僕が欲しかったのは、登山専用の服ではありませんでした。山でも使える。そして街でも着たいと思える。そんな服でした。

壁の前で知ったこと
クライミングとの出会い
そんな頃、クライミングを始めました。登山とはまるで違う世界でした。体全体の動きが、そのまま登れるかどうかに直結する世界です。
それでも僕は、格好良さを諦められませんでした。でも壁の前では、そんなことを言っていられません。登れないんです。見た目だけでは。
そこで初めて、パンツや素材が動きに大きく影響することを知りました。そしてその後、僕はストレッチパンツを履くことになります。

戻れなくなった
ストレッチパンツの動きやすさ
初めてストレッチパンツを履いた時のことは、今でもよく覚えています。正直、衝撃でした。めちゃくちゃ動きやすかったんです。一度知ってしまうと戻れない。本気でそう思いました。
まずクライミングではストレッチパンツを履くようになりました。そして気が付けば、登山でもストレッチパンツを履くようになっていました。
だから誤解してほしくありません。僕はストレッチパンツが嫌いだったわけではありません。むしろ逆です。大好きでした。もう昔のパンツには戻れない。本気でそう思っていました。あの頃は。
それでも好きになれなかった
ストレッチパンツの見た目
でも、不思議なことに好きにはなれませんでした。クライミングでも登山でも履いていました。理由は単純で、格好いいと思えない。もちろん機能は素晴らしい。でも僕は服を機能だけで選ぶことができません。格好いいと思えることも、僕にとっては同じくらい重要でした。
ストレッチパンツを履くようになってからも、その違和感は消えませんでした。山では履く。でも街では履かない。
一方で、好きな服は違いました。街でも着る。山へも持っていく。気が付けばいつも手に取っている。そういう服でした。動きやすい。それは認めます。でも、格好いいとは最後まで思えませんでした。

月美のパンツ
耐久性への疑問
クライミングではストレッチパンツを履いていましたが、見た目の違和感から登山では履かなくなりました。そんな頃から、別のことも気になり始めます。月美のパンツです。
当時、月美もストレッチパンツを履いていました。動きやすい。でも壊れる。それでも他に選択肢がない。だからまた買う。そんな状況でした。気が付けば3年で4本。僕はそこで違和感を覚えました。ストレッチパンツって、なぜこんなに耐久性が低いんだろう。
でも自然の中で使う道具として考えた時、それはあまりにもスペックが低すぎるように思えました。見た目の違和感。そして耐久性への疑問。その頃には、僕の中でストレッチパンツへの違和感は違和感ではなくなっていました。
自然の中で使うには弱すぎる。それが僕の結論でした。
クローゼットの奥
昔のパンツとの再会
見た目の違和感。そして耐久性への疑問。自然の中で使うには弱すぎる。それが僕の結論でした。じゃあ何が正解なんだろう。そんなことを考えていた時、ふと思い出したことがありました。そういえば昔、立体裁断のパンツを買ったことがあったな。見た目が好きじゃなくて履かなくなったパンツです。
どこに行っただろう。そう思ってクローゼットを探しました。ずっと奥に押し込まれたままでした。

なんでこれ動きやすかったんだ?
立体裁断との出会い
久しぶりに履いてみました。すると驚きました。めちゃくちゃ動きやすかったんです。ストレッチ素材じゃないのに、なぜここまで動きやすいんだろう。
調べてみて理由が分かりました。そのパンツには立体裁断が使われていたんです。つまり動きやすさは素材だけで決まるわけではない。パターンでも大きく変わる。
僕にとってはかなり衝撃的でした。なぜなら、それまで動きやすさはストレッチ素材によって生まれるものだと思っていたからです。でも違った。
パターンでここまで変わる。だったらストレッチ素材に頼らなくてもいいんじゃないか。
パターンを追いかける
パタンナーとの開発
もちろん僕はパタンナーではありません。パンツを設計する知識なんてありませんでした。だからパターンを作れる人を探しました。そしてパタンナーと一緒に開発を始めることになります。ただ、現実はそんなに簡単ではありませんでした。
動きやすくしたい。でも見た目は崩したくない。耐久性も欲しい。シルエットも妥協したくない。一つを良くすると、一つが悪くなる。そんなことの繰り返しでした。
そしてもう一つ。開発資金です。
立体裁断はパーツが増えます。パーツが増えれば裁断の手間も増える。縫製の手間も増える。当然コストも上がります。しかも開発中は完成形なんて見えていません。サンプルを作る。直す。また作る。また直す。その繰り返しです。正直、サンプル代だけでも膨大な金額になっていました。普通に考えれば、とっくに諦めていたと思います。でもやめようとは思いませんでした。ここまで来ると意地です。ずっと探していた答えだったからです。
そして少しずつ、理想のパンツの輪郭が見え始めていました。

NYCOをもう一度考える
素材への再挑戦
パターンの方向性は見えてきました。でも、まだ一つ問題が残っていました。素材です。そこで改めて目を向けたのがNYCOでした。ナイロンとコットンを組み合わせた、ミリタリーでは定番の素材です。
不思議でした。登山ではコットンは避けるべき素材と言われています。でもミリタリーの世界では今でも使われている。なぜなんだろう。調べていくうちに、その理由が見えてきました。強度です。
ミリタリーはアウトドアの究極形だと思っています。山より過酷な環境で使われることもある。そんな世界では速乾性よりも強度が優先される。だからNYCOが選ばれている。その考え方には妙に納得できました。
実際、僕も強度は重要だと思っています。でも僕たちは兵士じゃない。そこまでの強度は必要ない。しかし速乾性は絶対に捨てられない。なぜなら、それは命に直結するからです。
兵士にとっては服の強度が命を守るかもしれない。でも登山者にとって命を守るのは速乾性です。
だったらどうするか。生地を薄くすればいい。
積雪期はシェルパンツを履きます。一番過酷な環境はシェルが守ってくれる。だったら3シーズン用のパンツに、軍用レベルの厚みは必要ない。薄くする。その代わりNYCOの強さは残す。そうすればコットンが入っていても速乾性は確保できる。少なくとも僕はそう考えました。
登山の常識でもない。ミリタリーの常識でもない。つまりハイブリッドです。
結局、僕が欲しかったのはそこでした。登山パンツでもない。ミリタリーウェアでもない。その両方の価値観を持ったパンツだったんです。

43パーツへ
立体裁断の答え
素材の方向性は決まりました。そこからトライ&エラーの繰り返しでした。動きやすくするとシルエットが崩れる。シルエットを整えると動きにくくなる。気が付けばパーツは増えていきました。
最初から43パーツを目指したわけではありません。動きやすさを追いかけた結果、43パーツになっていました。正直、やり過ぎなんじゃないかとも考えました。でも削れなかった。一つひとつに理由があったからです。
43パーツは自慢したい数字ではありません。本当はもっと少ない方がいい。作るのも大変です。コストもかかります。動きやすさを追いかけた結果、そうなってしまったんです。

今の僕なりの答え
アドベンチャーパンツの誕生
ストレッチパンツを否定したいわけではありません。クライミングでは今でも素晴らしい選択肢だと思っています。でも僕が欲しかったのは別のものでした。
TRAIL ROCKER PANTSは、最初から作ろうと思って作ったパンツではありません。山で感じた違和感を一つひとつ追いかけた結果、生まれたパンツです。かなり遠回りだったと思います。でも、これが今の僕なりの答えです。
本来、僕は「汎用的な道具」があまり好きではありません。多くの場合、それは何かを犠牲にした中途半端な存在に見えるからです。
けれど僕たちが歩くフィールドでは、岩や藪に耐える強さも必要です。岩稜帯でストレスなく動けることも必要です。雨や汗に濡れても快適に行動できることも必要です。そして街でも履きたいと思えること。さらに何年も履き続けられる耐久性も必要です。
そのすべてを高いレベルで満たしてくれるパンツを、僕は見つけることができませんでした。だから作りました。
クライミングだけをする人には必要ないかもしれません。ハイキングだけをする人にも必要ないかもしれません。でも、ひとつの用途だけでは語れないフィールドを歩く人にとっては、きっと意味のある一本になると思っています。
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