記事: 【面河渓・千段滝沢】その名の通り、千の滝が立ちはだかる沢
2026.6.14 面河渓・千段滝沢
夏の低山は暑い。
標高を上げても結局暑いし、毎年この季節になると「もう山なんか登ってられないな」と思う。
そんな時に行きたくなるのが沢だ。
2026年の沢シーズン一発目に選んだのは、愛媛県・面河渓にある千段滝沢。
選んだと言っても、沢の行き先はだいたいミッシーが決めるので、今回もいつも通りである。

前日の夜に面河渓の駐車場へ入り、そのまま車中泊。
翌朝6時30分に駐車場をスタートし、8時44分に入渓した。
今回のメンバーは、ミッシー、マイケル、大田さん、そして自分の4人。
大田さんは初対面だったが、ミッシーの知り合いで、日本山岳会広島支部の副部長を務められている方だった。
前泊の夜に話を聞いていると、天皇陛下も会員である日本山岳会の報告会でお会いしたこともあるらしい。
山をやっていると、普通に生きていたら絶対に出会わないような人と山で繋がることがある。
これも山の面白さのひとつだ。
あと、大田さんがかなりのヘビースモーカーだったのも良かった。
自分も吸うので、正直かなり気が楽だった。
久しぶりに会うマイケルもそうだけど、こういうメンバーだと気を使わない。
沢に入る前から、今日は楽しい日になるなという感じがしていた。

さて、千段滝沢だ。
この沢、名前だけ聞くと少し大げさに聞こえる。
千の滝なんてあるわけがない。
でも、実際に遡行して思った。
「ああ、これは千段滝沢だわ」
名前負けしていない。
むしろ、そのままだった。
今までいろんな沢に入ってきたけど、こんな沢は初めてだった。
普通の沢にはリズムがある。
歩いて、滝が出てきて、また歩く。
平流があって、時々核心がある。
でも千段滝沢には、それがなかった。
最初から最後まで滝。
滝。
また滝。
振り返っても滝。
次の曲がり角にも滝。

まるで沢全体が巨大なアスレチックみたいだった。
驚くほど大きな滝があるわけじゃない。
でも小さすぎない。
登っていて一番楽しいサイズの滝が、最初から最後までずっと続く。
こんな沢は本当に初めてだった。

沢登りを始めたばかりの人なら、間違いなく大喜びすると思う。
自分たちみたいに沢に慣れている人間でも、「また来てもいいな」と思えた沢だった。
ただし、「初心者向け」と「安全」は別の話だ。
沢登りは、簡単な滝でも落ちれば死ぬ高さというのが普通にある。
今回も一箇所だけ、難しくはないけど落ちたらまずい滝があった。
50mと30mのロープを一本ずつ持っていたので、安全のため確保して登った。

沢では、「行ける」と「落ちても大丈夫」は全く別の話だ。
沢登りを始めるなら経験者同行は必須。
千段滝沢も、沢デビューするなら経験者と一緒に入るのが良いと思う。
個人的には遡行より下山の方が気を使った。
脱渓後は尾根を見つけ、古い作業道のような踏み跡を辿って下山。
踏み跡はあるけど、明瞭な登山道というほどではない。
ところどころ崩壊している場所もあり、その度に地形図とGPSを確認しながら進んだ。
経験者なら問題ないと思うけど、初心者だけだと迷う可能性は十分あると思う。
今季最初の沢ということもあって、やっぱり少し緊張感はあった。

毎年そうだ。
冬が終わると沢の感覚は少し鈍る。
沢靴のフリクション。
濡れた岩の感触。
身体の使い方。
そして毎年思う。
「沢ってこんなにしんどかったっけ?」
息が切れる。
足が重い。
沢の身体は沢でしか戻らない。
今年も例外じゃなかった。
でも、それも含めて沢シーズンの始まりだ。
水量はおそらく少なめ。
ただ、水は驚くほど冷たかった。
腰まで浸かる場面はほとんどなかったけど、一瞬深みに入った時は思わず声が出そうになるくらい冷たかった。
真夏なら最高だと思う。
最近は毎年思う。
夏山は暑すぎる。
沢は最高だ。

12時半頃に脱渓し、駐車場に戻ったのは15時22分。
歩行距離は約6.5km、累積標高は807mだった。
遡行時間は約4時間。
でも、自宅から現地までは片道5時間半。
往復すると11時間になる。
冷静に考えると、効率の悪い遊びだ。
それでもまた行きたくなるんだから、不思議なものである。
下山中には、兜岩だったか鎧岩だったか、とにかく圧巻の岩壁が現れた。
沢の余韻が残る身体で見上げる巨大な岩壁は、本当にすごかった。
正直、あれだけ見に来ても良いと思えるくらいだった。
山には時々、予定していなかったご褒美がある。

久しぶりにマイケルと山に入れたのも楽しかった。
初めましての大田さんとも気を使わず過ごせた。
そして今季最初の沢は、やっぱり最高だった。
でも結局、一番記憶に残るのは、どこへ登るかよりも誰と登るか。
